海南高校だより 10
 平成11年3月 1999.3 (170)
− 海南高校におけるインターネットの
    教育利用とこれからの情報教育 −
 今日、カラスの鳴かない日があっても、インターネットという言葉が聞かれない日はありません。インターネットは、それほど社会に浸透し、私たちにも身近な存在となってきました。
 学校においては、コンピュータの仕組みを知ったり、インターネットなど、あふれる情報の中から必要な情報を取り出し、それらをうまく活用し、さらに自分の考えとして発信できる能力を育てる教育、つまり情報化社会に対応できる人材を育成するための教育、情報教育という言葉が聞かれるようになりました。
 これまで商業高校や工業高校において、情報に関する専門の教育が行われてきましたが、平成十五年から、普通科高校においても、新教科「情報」が設置され、必修科目として授業がおこなわれることが決まりました。

【校内ネットワーク環境】
 本校に生徒用コンピュータが四十台設置されたのが、平成八年、インターネットが導入されたのは、九年一月のことでした。このときはたった1台しか利用できなかったインターネットですが、翌十年四月に、四十台すべてから利用可能となりました。また、今年の1月には、校内ネットワーク(以下校内LAN)の整備を進め、校内十カ所からインターネットが利用できるようなりました。このような大規模な校内LAN環境を持つ学校は、海南・海草地域内では、今のところ本校だけです。
 さらに、十一年度中には、通信衛星からの電波を受信し、インターネットを高速に利用できる設備が導入されることになっています。これは、一般家庭で普及しているインターネット回線の約二十倍から五十倍の大容量を持っていますので、より快適にインターネットを学習活動に利用できることになります。

【教養理学科特設授業】
 平成七年に設置された「教養理学科」において、この情報教育を先取りする形で授業実践が行われています。これらの実践の特徴は、コンピュータの使い方を教えるというよりも、「学びを広め、さらに深める」ことにあります。
 教養理学科の七年度の特設課外授業では、美里町のみさと天文台に行き、天体観測とインターネット体験を行いました。翌八年春には、同天文台で、あの「百武彗星」観測を行い、観測結果をコンピュータで処理し、その結果をインターネット上に発表しました。
 九年度と十年度には、和歌山大学システム工学部において、通信技術やインターネットについての特別講義を受け、インターネット体験と生徒のホームページ作成の実習などを行いました。このような先進的な取り組みは、単なる知識の吸収だけに止まらず、将来の進路意識を高める上でも大変重要なことです。

【普通科での実践】
 本年度、普通科において、二年生文系の数学演習の授業で、新しい試みとして次のような授業に取り組みました。それは、二年生までに学習した数学の内容について、より深く調べたり、実社会との関わりについて調べ、結果を発表するという課題研究です。図書館の書籍などで調べたりする以外に、インターネットを積極的に利用させたところ、実に幅の広い情報が得られ、指導する教員もびっくりしました。
 さらに、この生徒たちの課題研究発表会の様子を、双方向のやりとりができるテレビ電話を使って、同時に四カ所に生中継しました。この生中継を見た美里町立美里中学校の生徒達から、「すごいことをしている」「先輩がどんな勉強をやっているかよくわかった」などの感想が寄せられました。中学生にかなりのインパクトを与えたようです。もちろん当の高校生にも「先生以外の人に見られている」「やりがいがある」など好評でした。

【特別活動】
 授業以外では、二年生は沖縄修学旅行に関する情報、三年生は希望する大学や会社の情報を得たりしています。ある大学のページを見たのがきっかけで、専攻したい学科を決め、本当に合格してしまった生徒も現れました。その大学では、それぞれの学科の内容を専門的内容も含めて、写真入りで大変詳しく紹介していました。こんな勉強ができる大学を探していました、そう言って生徒が志望校を決めたのです。ややもすると偏差値だけにとらわれがちな大学選択ですが、今回のケースは望ましい形と言えそうです。
 課外活動の分野では、物理部が本校のホームページの作成や維持を行っているほか、ESS部を中心に北アイルランドとの電子メール交換も行われています。

【学校の地域開放】
 一例として、今年度のコミュニティ・スクール(学校開放講座)を紹介します。コミュニティ・スクール事業は県教育委員会が事業主体となって、県民の生涯学習の推進のため、県立学校のもつ施設・設備を開放するものです。
 平成十年度、本校では、九月一日から十一日までの日程で「パソコン教室・実践インターネット講座」と題して実施されました。この講座には、海南・海草地域の住民約三十名が受講し、本校のインターネット環境を存分に使い、ホームページを見たり、情報検索の方法を学んだり、また電子メールの送受信も行い、最後は自分のホームページを作成しました。特に9月8日夜には、みさと天文台の協力で、世界で初めて、一般市民による大型天体望遠鏡の遠隔操作を行い、実際の天体観測に成功しました。
 このほか、三月には海南市立第一中学校の生徒が、本校のインターネット環境を利用して社会科の学習をすることになっています。

【学びの共同体】
 このように、インターネットを通じて、教員は教科や教材の情報を、生徒は進路の情報などを収集することが可能となったことはもちろんですが、インターネットを初めとする情報通信技術の発達により、これまでの授業スタイル(先生と生徒だけの関係)に加えて、地域住民や他の学校と共同で学習を進めていくようなことも可能となってきたわけです。
 インターネットは単なるコンピュータ同士のつながりというよりは、むしろコミュニケーションを通じて、人と人の交流を促し、学びの共同体(ともに学ぼうという共同体)を形成していく道具なのです。情報教育は、そのような道具の使い方を知り、それを使って自分の思いをどう表現し、人に伝えていくかを学ぶことと言えるでしょう。

海南高校のホームページ(http://www.cypress.ne.jp/kainan)